コロナ禍を経て、日本を訪れる外国人旅行者数は急回復しています。しかし「インバウンド対応」といえば多言語メニューやキャッシュレス決済が話題になる一方、あるターゲットへの対応はまだ多くのビジネスで後回しにされています。それが、世界で約20億人を占めるムスリム旅行者です。
ムスリム旅行者市場、その規模を知っていますか?
「ハラール」という言葉は耳にしたことがあっても、その市場規模はあまり知られていません。実際の数字を見てみましょう。
(世界人口の約25%)
年間旅行支出(世界)
ムスリム旅行先ランキング
(非OIC加盟国部門)
日本はすでに「行きたいムスリム旅行先」として世界トップクラスの人気を誇っています。マレーシア・インドネシアをはじめ、中東・南アジアからの旅行者が増加しており、その消費意欲の高さも注目されています。
日本はムスリム旅行者に「選ばれている」国。
問われているのは、受け入れ側の準備です。
「対応していない」だけで、どれだけ損しているか
ムスリム旅行者が旅行先を選ぶ・リピートする際、食事とお祈り環境は最も重視される要素です。もし対応が不十分であれば、次のような機会損失が発生します。
ハラール未対応によるよくある機会損失
- 「食べるものがない」と口コミに書かれ、集客が下がる
- グループ旅行で1人が食べられないと、全員が別の店へ移動してしまう
- 旅行代理店・OTAのムスリム向けプランに掲載されない
- SNS拡散が起きず、訪日ムスリムコミュニティへのリーチがゼロ
- リピーター化せず、一度来ても次の来訪につながらない
特に注意したいのがグループ消費の構造です。ムスリム旅行者は家族や友人グループで来訪するケースが多く、1人が食べられない店はグループ全員が避けます。つまり、対応一つで複数人分の売上が丸ごと他店に流れてしまうのです。

ハラール対応とは何か? まず基本を押さえよう
「ハラール対応は難しそう」と感じる方も多いですが、すべてを一度に揃える必要はありません。まずは基本を理解するところから始めましょう。
ハラール(حلال)とは
アラビア語で「許されたもの・合法なもの」を意味します。イスラム法(シャリーア)の規定に基づき、ムスリムが食べてよいもの・行動してよいことを指します。
食に関する主なハラール禁止事項
- 豚肉・豚由来成分(ゼラチン、ラード、乳化剤など)
- アルコール・アルコール由来の調味料(みりん、料理酒なども対象になる場合あり)
- イスラム法に基づいてとさつされていない肉類
- これらを含む加工食品・ソース・出汁
日本食との相性でいえば、ラーメンの豚骨スープ・和食の出汁(かつおなど)・みりんなど、一見問題なさそうな食材にも注意が必要です。一方で、新鮮な刺身・寿司(アルコール不使用)・野菜料理・豆腐料理などはハラールに対応しやすいカテゴリです。

礼拝(サラー)への配慮
ムスリムは1日5回の礼拝義務があります。旅行中も礼拝の時間は変わりません。礼拝スペースや礼拝の方向(キブラ)の案内があるだけで、ムスリム旅行者の満足度は大きく向上します。
はじめの一歩:段階的に取り組む3つのステップ
「認証を取得しないとハラール対応できない」という誤解があります。認証は対応を証明する手段の一つですが、まずできることから始めることが重要です。
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使用食材の把握・アレルゲン情報の整理
自店で使用している食材を棚卸しし、豚由来成分・アルコールの有無をリスト化する。まず「何が入っているか把握している」状態を作ることが第一歩です。 -
ムスリムフレンドリーメニューの作成・表示
豚肉・アルコール不使用のメニューを明示する。英語・アラビア語での表示や「Pork-free」「Alcohol-free」のマークを追加するだけでも大きな変化があります。 -
ハラール食材の調達・認証取得・メニュー開発
対応が整ったら、ハラール認証済み食材の仕入れや専門家のサポートを活用する。ムスリム旅行者が安心して選べる体制を整えることが、集客の鍵になります。
対応したビジネスが得るもの
ハラール対応後に見られる主な変化
- 訪日ムスリム向けSNS・コミュニティで自然に拡散され、認知が広がった
- グループ客の来店単価が上がり、売上が増加した
- 旅行代理店・インバウンド専門OTAとの提携につながった
- 「安心して食べられる場所」としてリピーターになってもらえた
- 対応をきっかけにスタッフの異文化理解が深まり、接客品質が向上した
ハラール対応はコストではなく、新しい顧客との接点を作る投資です。20億人市場へのドアを開く最初の鍵は、意外とシンプルなところにあります。
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※ 本記事に記載の統計データは各出典時点のものです。最新情報は各機関の公式発表をご確認ください。
出典:Pew Research Center / Global Muslim Travel Index (GMTI) 2023 / 観光庁「訪日外国人消費動向調査」