この記事でわかること
2026年10月7日、青森県八戸市の水産加工メーカー株式会社味の加久の屋が、ずわいがに関連商品でハラル認証を取得したと発表しました。認証の取得日は同年9月16日です。
和牛やチョコレートのような話題性のあるニュースではありません。ですが、地方の中堅水産加工メーカーが、輸出とインバウンドを同時に狙って認証を取りに行ったという点で、これまでのシリーズで追ってきた流れの「次の段階」を示す事例です。過去記事(第5弾:インバウンドEXPO600社集結)で触れた動きが、実際に地方企業の経営判断として表れ始めています。
📌 この記事でわかること
- 青森・八戸の味の加久の屋が、ずわいがに(チルド・冷凍)でハラル認証を取得した経緯
- 「輸出」と「インバウンド」を同時に狙う認証取得が増えている理由
- 水産物は畜肉よりハラール対応が容易──ただしゼロではない4つの確認点
- ムスリム対応の寿司・和食店が、魚介の調達でつまずきやすいところ
何が発表されたのか
発表の要点
- 企業:株式会社味の加久の屋(青森県八戸市/八戸缶詰企業グループ)
- 認証取得日:2026年9月16日(発表は10月7日)
- 対象:ずわいがに(チルド・冷凍)関連商品
- 目的:東南アジア・中東などへの輸出 + 訪日ムスリム旅行者への商品提供
- 支援:一般社団法人ハラル・ジャパン協会によるハラルビジネスコンサルティング
同社は1984年に「ずわいがにむき身」のチルド出荷を全国に先駆けて開始した会社で、主力はプロ向けの寿司ネタ・業務用商材です。サバ缶詰などの水産加工品、「元祖いちご煮」「八戸せんべい汁」といった八戸の郷土食も手がけています。
つまり今回ハラール対応したのは、一般消費者向けの小売商品ではなく、飲食店が使う業務用の寿司ネタです。ここが重要なところです。
「輸出のため」だけではなくなってきた
数年前まで、日本企業がハラール認証を取る動機はほぼ輸出一択でした。マレーシアやインドネシアに売るために必要だから取る、という順序です。
今回のリリースは、輸出と並べて「日本を訪れるムスリム旅行者への商品提供」を明記しています。これは認証取得の採算計算が変わったことを意味します。輸出だけなら、現地での販路が立ち上がるまで認証コストを回収できません。一方、インバウンド需要は国内の飲食店・ホテルという買い手が、国内にいる状態です。
認証を取ったメーカーからすれば、売り先が二つになる。国内の飲食店からすれば、今まで「ハラール対応の寿司ネタが見つからない」と諦めていたものが、国内のメーカーから調達できるようになる。訪日ムスリム客の増加を背景に、この循環が回り始めています。
水産物のハラール対応は、畜肉より論点が少ない
魚介類は、イスラム法上の扱いが肉類よりシンプルです。食肉のような屠畜方法の要件がないため、原則として魚介類そのものはハラールとされます(学派により貝類・甲殻類の扱いに差はあります)。
だからこそ「魚なら大丈夫」と思われがちなのですが、加工した時点で論点が生まれます。実務で確認が必要になるのは次の4点です。
水産加工品で確認すべき4点
- 調味液のアルコール──味付け・漬け込みに使うみりん、料理酒、発酵調味料。最も多いのがここです
- 加工助剤・添加物──乳化剤や増粘剤に動物由来の原料が使われることがあります
- ライン共用──同じ工場で豚肉・アルコール含有品を扱う場合、洗浄と区分の手順が問われます
- すり身製品──かに風味かまぼこなどは原料が魚肉+調味料の集合体で、確認項目が一気に増えます
つまり「かにそのもの」ではなく「かにを加工する工程」が認証の対象になります。今回の加久の屋のケースで認証が付与されたのも、商品というより製造工程を含めた体制に対してです。
調味液のアルコールについては、ハラールのよくある誤解Q&Aとみりん・料理酒のハラール代替品まとめで詳しく整理しています。
寿司・和食店がつまずくのは、実は「魚」ではない
ムスリムのお客様に寿司を出そうとしたとき、最初に悩むのはネタの調達です。しかし実際に対応を進めると、ネタよりも周辺の調味料で止まるケースのほうが多くあります。
- 醤油──一般的な本醸造醤油は発酵過程でアルコールが生じます
- すし酢──原料や調整に使う成分の確認が要ります
- だし──風味調味料に含まれる原料の確認
- 玉子焼き・煮穴子──みりん・料理酒を使う工程
魚そのものは問題なくても、卓上の醤油が対応できていなければお客様は食べられません。ネタの調達と並行して、調味料側も揃える必要があります。それぞれ業務用ハラール醤油の選び方、ハラール酢の選び方、ハラールだしの選び方にまとめました。
HALAL ICHIBA の現状 — 水産系はこれから
正直に書きます。HALAL ICHIBA が現在取り扱っているハラール認証済み商品のうち、水産系はまだ多くありません。魚介を原料とする商品としては、かね七のだし類と素干しえびが中心です。
逆に言えば、ここは明確に空いている領域です。今回の加久の屋のように水産加工メーカーのハラール対応が進めば、ムスリム対応の寿司店・和食店が国内で食材を揃えられるようになります。
水産加工メーカーの皆さまへ
HALAL ICHIBA では出展者を募集しています。登録料・掲載料・手数料はすべて無料で、Tradi が卸値で仕入れて販売します。ハラール認証を取得済み、または取得を検討中の水産加工メーカー様からのご連絡をお待ちしています。
シリーズ全体で見えてくる潮流
本シリーズで取り上げてきた業界動向を並べると、方向性が見えてきます。
- 第2弾:MRA(相互承認)締結(制度整備)
- 第4弾:サイゼリヤ マレーシア進出(大手企業の実践)
- 第5弾:インバウンドEXPO600社集結(業界インフラ化)
- 第6弾:Beryl's日本上陸(双方向グローバル化)
- 第7弾:インドネシア義務化 実施フェーズへ(本番運用)
- 第8弾:花王 インドネシア現地生産(非食品への波及)
- 第9弾(今回):地方の水産加工メーカーが輸出+インバウンドで認証取得
「制度整備 → 大手参入 → インフラ化 → 双方向流通 → 義務化 → 非食品へ波及」と来て、今回は地方の中堅企業が自社の経営判断として動き始めた段階です。大手が切り拓いた道を、地域の食品メーカーが実際に歩き出しています。
まとめ
青森・八戸の味の加久の屋が、ずわいがに関連商品でハラル認証を取得しました。輸出とインバウンドの両方を目的に掲げた点が、これまでの「輸出のための認証」とは異なります。
水産物は畜肉よりハラール対応のハードルが低い分野ですが、加工工程での調味液・添加物・ライン管理という論点は残ります。そして飲食店側から見れば、魚が揃っても醤油・酢・だし・みりんが揃わなければメニューは完成しません。HALAL ICHIBA は、その調味料側の供給窓口としてお役に立てればと考えています。