この記事でわかること
「日本酒を造っている会社が、ハラール認証を取れるのか」
答えは取れます。そして実際に取りました。
2026年7月16日、盛田株式会社(愛知県名古屋市)の小豆島工場が、ハラール認証を取得したと発表されました。盛田は寛文5年(1665年)に清酒造りを開始し、昨年創業360周年を迎えた醸造メーカーです。しょうゆ・みそ・料理酒・みりんを柱とする食品事業と、日本酒を主力とする酒類事業を持っています。
この一件は、ハラール認証について最も誤解されやすい点を、きれいに説明してくれます。
📌 この記事でわかること
- 日本酒を造る会社がハラール認証を取得できる理由──認証の単位は「会社」ではない
- 盛田・小豆島工場の認証概要(2026年7月1日付/ムスリム・プロフェッショナル・ジャパン協会)
- なぜ醤油メーカーは専用ラインを立てる必要があるのか
- 「当面は限定的な生産」の意味と、買い手側が今から準備すべきこと
発表の要点
盛田株式会社 小豆島工場のハラール認証
- 対象:盛田株式会社 小豆島工場(香川県小豆郡小豆島町)
- 認証日:2026年7月1日付(発表は7月16日)
- 認証機関:一般社団法人ムスリム・プロフェッショナル・ジャパン協会
- 企業:盛田株式会社(愛知県名古屋市)。株式会社JFLAホールディングスの子会社
- 沿革:寛文5年(1665年)に愛知県・小鈴谷村で清酒造りを開始。昨年創業360周年
- 今後:当面は限定的な生産。需要動向を踏まえて供給体制を拡充し、海外輸出を含めたグローバル展開を進める方針
認証の単位は「会社」ではなく「工場・ライン」
ハラール認証でよくある誤解が、「酒を造っている会社の製品は全部だめ」というものです。
そうではありません。ハラール認証は製品と、それを造る製造工程に対して付与されるものです。審査の対象は、原材料、製造ライン、洗浄手順、保管・物流、従業員の教育といった具体的な運用です。同じ会社の別の工場で日本酒を造っていても、認証を受ける工場が要件を満たしていれば認証は成立します。
今回のリリースが「盛田株式会社」ではなく「盛田株式会社 小豆島工場」と工場名を明記しているのは、そのためです。
これは特殊な例ではありません
日本のハラール醤油は、ほぼすべてこの形で造られています。キッコーマン、丸十大屋、福岡醤油店、麻生醤油──いずれも一般の醤油を造りながら、ハラール対応の製品を専用の設計で製造しています。
詳しくはハラールのよくある誤解Q&Aをご覧ください。
醤油に専用ラインが要る理由
醤油は、大豆と小麦を麹菌で発酵させて造ります。この発酵の過程で、意図せずアルコールが生成されます。一般的な本醸造醤油にはおおむね2〜3%程度のアルコールが含まれ、さらに品質保持のためにアルコールを添加する製品もあります。
ハラール対応の醤油は、この点を設計から変えています。製法を調整してアルコールの生成を抑える、あるいは製造後に除去する。いずれにしても通常の醤油とは別の工程が必要になり、そのために専用ラインや専用工場が立つわけです。
「ハラール醤油が普通の醤油より高いのはなぜか」という質問をいただくことがありますが、理由はここにあります。認証費用そのものより、製造を分けることのコストが大きいのです。
醤油の選び方は業務用ハラール醤油の選び方に、だしについてはハラールだしの選び方にまとめています。
「当面は限定的な生産」をどう読むか
盛田のリリースには、「当面は限定的な生産となりますが、今後は需要動向を踏まえながら生産・供給体制の拡充を図り」という一文があります。
これは謙遜ではなく、ハラール対応の実態をそのまま書いたものです。専用ラインを立てても、最初から大量には回せません。需要が読めないうちは生産ロットを絞り、引き合いを見ながら広げていく。どのメーカーも同じ進み方をします。
買い手側から見ると、これは次のことを意味します。
- 供給量は需要に遅れて増える──「必要になってから探す」と間に合わないことがある
- メーカーの生産判断は引き合いの量で決まる──問い合わせること自体が供給を増やす
- 複数の調達先を知っておく──1社に依存すると、生産調整の影響を直接受ける
この「供給が先に詰まる」構造は、第10弾で取り上げた和牛の屠畜枠とも共通しています。
HALAL ICHIBA の醤油ラインナップ
HALAL ICHIBA では、4つのメーカーのハラール認証醤油を取り扱っています。味の方向性も価格帯も異なるので、用途に合わせて選べます。
味噌については、麻生醤油の「家族のみそ」を受注対応品として取り扱っています。
認証機関の選択肢も増えている
今回の盛田の認証機関は一般社団法人ムスリム・プロフェッショナル・ジャパン協会です。本シリーズではこれまで、JHA(日本ハラール協会)、NAHA(日本アジアハラール協会)、JHF(ジャパン・ハラール・ファンデーション)、HFFIA といった機関を紹介してきましたが、国内の認証機関は着実に増えています。
どの機関を選ぶかは、どこに売るかで決まります。インドネシア向けならBPJPHと相互承認(MRA)を結んでいる機関、マレーシア向けなら JAKIM が認める機関、という具合です。第2弾で取り上げたMRA締結以降、この対応関係を踏まえた機関選びが実務上の論点になっています。
シリーズ全体で見えてくる潮流
本シリーズで取り上げてきた業界動向を並べると、方向性が見えてきます。
- 第2弾:MRA(相互承認)締結(制度整備)
- 第4弾:サイゼリヤ マレーシア進出(大手企業の実践)
- 第5弾:インバウンドEXPO600社集結(業界インフラ化)
- 第6弾:Beryl's日本上陸(双方向グローバル化)
- 第7弾:インドネシア義務化 実施フェーズへ(本番運用)
- 第8弾:花王 インドネシア現地生産(非食品への波及)
- 第9弾:八戸の水産加工メーカーが認証取得(地方企業の参入)
- 第10弾:和牛輸出のボトルネックは屠畜枠(供給インフラの制約)
- 第11弾(今回):創業360年の醸造メーカーが調味料でハラール対応へ
制度が整い、大手が参入し、義務化が始まり、供給インフラの制約が見え、そして今回は老舗メーカーが自社の主力分野で対応を始めた段階です。「ハラール専業の新興メーカー」ではなく、360年続いてきた会社が通常業務の延長として取り組むようになったことが、この市場の成熟を示しています。
まとめ
創業1665年、日本酒も造る盛田株式会社の小豆島工場が、2026年7月1日付でハラール認証を取得しました。ハラール認証の単位は会社ではなく工場・製造ラインであることを、わかりやすく示す事例です。
醤油は発酵でアルコールが生じるため、ハラール対応には専用の製造設計が要ります。そのぶん供給量は限られ、拡大も需要を見ながら段階的に進みます。必要になってから探すのではなく、使える供給元を先に把握しておくことが、飲食店・事業者側の実務的な備えになります。
HALAL ICHIBA では4メーカーのハラール醤油と味噌を取り扱っています。味の方向性が異なるので、まずは少量で試して比べていただくのが確実です。