この記事でわかること
和牛をマレーシアに売るとき、ボトルネックになるのは需要ではありません。屠畜できる場所です。
2026年9月30日、和牛の輸出・加工・流通を手がける株式会社WAGYU JAPAN(三重県津市)が、株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO」で2回目の資金調達を開始しました。調達資金の使途は、マレーシア向けのハラール対応供給体制の構築です。
このリリースの中に、日本のハラール和牛流通を理解するうえで決定的な数字が出てきます。マレーシア向けに輸出できるハラール対応の認定施設は、日本国内に3施設しかないというものです。
📌 この記事でわかること
- マレーシア向けハラール対応認定施設が国内に3施設しかないという供給制約
- マレーシアの牛肉市場──ASEAN最大の消費量と、8割超を輸入に頼る構造
- 日本産牛肉の輸入はロース以外が7割。「一頭をどう売り切るか」という課題
- 国内のハラール和牛が高い理由と、部位を選んで仕入れるという考え方
発表の要点
WAGYU JAPAN の資金調達(2026年9月30日)
- 前回実績:目標1,000万円に対し3,850万円(達成率385%)を205名から調達
- 今期売上:約3.8億円の見込み。タイ・台湾などアジア市場を中心に輸出
- 実績:海外の焼肉大手を含む約50社が同社の加工技術を採用
- 認定:2026年6月、輸出促進法に基づく「輸出事業計画」で農林水産大臣の認定を取得
- 資金使途:タイの加工・商品開発拠点「和牛総合研究所」の機能強化と、マレーシア向けハラール対応供給体制の整備
- 直近の動き:2026年9月23〜26日、クアラルンプールMITECのハラール関連展示会に佐賀和牛輸出協議会の一員として出展。現地企業約30社と商談
マレーシア市場 — 需要は十分にある
同社がマレーシアを次の市場に選んだ理由は、需要と規制の2点です。
- マレーシアの牛肉消費量は東南アジアで最大。1人あたりの消費量は日本を上回ります
- 一方で国内生産は少なく、需要の8割以上を輸入に依存
- 日本産牛肉の輸入はカタ・モモ・バラなどロース以外の部位が7割以上
3つ目が特に興味深いところです。和牛の輸出というとサーロインやリブロースの霜降りを想像しがちですが、実際に出ているのはそれ以外の部位が大半だということです。
ボトルネックは「屠畜枠」
そしてもう一方の理由、規制環境です。
マレーシアへ牛肉を輸出するにはハラール認証が必須で、日本国内で同国向けに輸出できるハラール対応の認定施設は現在3施設にとどまります(熊本県の施設が再認定手続き中で、認定されれば4施設)。WAGYU JAPAN はこのうち2施設の屠畜枠を確保しており、これを基盤に供給体制を築く計画です。
供給制約という構造
同社代表の松本氏は説明会で「市場は伸びる。供給は限られる。規制は緩まない。この構造の中で、供給側の入口を先に押さえていることがマレーシアに注力する根拠だ」と述べています。
認証を「取るか取らないか」の前に、そもそも処理できる施設が数えるほどしかない。これがハラール食肉の実態です。
この構造は、国内のハラール和牛にもそのまま当てはまる
ここまでは輸出の話ですが、国内で飲食店がハラール和牛を仕入れるときも、同じ制約の下にいます。
ハラール対応の屠畜ができる施設が限られている以上、国内に出回るハラール和牛の総量も限られます。需要が増えても供給は簡単には増えない。だからハラール認証の和牛は、一般流通の和牛より単価が高くなります。「なぜ高いのか」の答えは、ブランド料ではなく処理能力の希少性です。
そしてもう一つ、マレーシア向け輸出で「ロース以外が7割」という話は、国内でも同じです。一頭を屠畜すれば、ロースだけでなく、ハラミもタンもミノもテールも出ます。これらを引き受ける買い手がいて初めて、ハラール和牛の流通は成り立ちます。
HALAL ICHIBA が部位を幅広く扱う理由
HALAL ICHIBA では、ハラル近江牛・ハラル伊賀牛をロース系から内臓まで取り扱っています。焼肉店・ホルモン店からの引き合いが多い部位を中心に、在庫のあるものを掲載しています。
この他にも、サガリ・テール・レバー・シマチョウ・センマイ・ハチノス・小腸など、内臓部位を細かく揃えています。詳しい選び方はハラール認証の業務用食肉はどこで仕入れるにまとめました。
焼肉のたれ・ぽん酢も、ハラール認証を取得した調味料で揃えられます。
シリーズ全体で見えてくる潮流
本シリーズで取り上げてきた業界動向を並べると、方向性が見えてきます。
- 第2弾:MRA(相互承認)締結(制度整備)
- 第4弾:サイゼリヤ マレーシア進出(大手企業の実践)
- 第5弾:インバウンドEXPO600社集結(業界インフラ化)
- 第6弾:Beryl's日本上陸(双方向グローバル化)
- 第7弾:インドネシア義務化 実施フェーズへ(本番運用)
- 第8弾:花王 インドネシア現地生産(非食品への波及)
- 第9弾:八戸の水産加工メーカーが認証取得(地方企業の参入)
- 第10弾(今回):和牛輸出の制約は需要でなく「処理能力」
制度が整い、大手が参入し、義務化が始まった。ここまでは「需要側」と「ルール側」の話でした。今回明らかになったのは、供給側のインフラがまだ追いついていないという現実です。施設が3つしかないという事実は、裏を返せば先に押さえた事業者が強い市場だということでもあります。
まとめ
WAGYU JAPAN がマレーシア向けハラール供給体制の構築に動いています。マレーシアは牛肉消費量が東南アジア最大で需要の8割超を輸入に頼る一方、日本側で対応できる認定施設は3施設のみ。需要ではなく供給が制約になっている市場です。
この構造は国内のハラール和牛にもそのまま当てはまります。供給量が限られるからこそ、仕入れる側はロース一辺倒ではなく、部位を使い分ける設計が有効になります。HALAL ICHIBA では、ハラル近江牛・伊賀牛を内臓部位まで幅広く取り扱っています。