この記事でわかること
2026年10月18日、インドネシアでハラル認証の義務化が発効します。第7弾で「約1ヶ月後に迫る」として取り上げた、あの期限です。
ただ、発効を目前にして現地から聞こえてくるのは、歓迎の声ばかりではありません。制度そのものを見直すべきだという指摘が、経済研究機関から相次いで出ています。
そしてその議論の中に、日本の輸出事業者が知っておくべき数字と、優先的に審査される品目のリストが含まれていました。
📌 この記事でわかること
- 発効を前に噴出している「制度見直し論」の中身
- 1日102,000件必要な認証を、2,678件の能力で回している現実
- リスクベース審査で「優先的に厳しく見られる」品目 ── 日本の輸出品の多くが該当します
- 制度が変わるかもしれない中で、日本の事業者が今やるべきこと
何が起きているのか
インドネシアのハラル製品保証法(JPH法)は、国内で流通するほぼ全ての製品にハラル認証を義務づけるものです。2024年10月から中・大規模事業者に適用され、2026年10月18日に対象が広がります。
この発効を前に、ジャカルタ・グローブ紙が現地の経済研究機関2団体の見解を報じました。要旨はこうです。
CELIOS(経済法律研究センター)ナイルル・フダ所長
「すべての零細・中小企業(MSME)が認証を取る必要はない。インドネシアは国民の大半がムスリムで、ハラール食品は簡単に見つかる。むしろ非ハラール食品のほうにラベルを義務づけるべきだ」
認証の手続きとコストが、資本も人員も限られる小規模事業者の重荷になっていると指摘。全製品への認証義務を、非ハラール製品への表示義務に置き換える案を提示しています。
CORE Indonesia ユスフ・レンディ・マニレ氏
「中小企業の懸念はもっともだ。ただし問題は義務化の目的ではなく、実施設計と執行の方法にある」
ハラール性は消費者が自分で検証できない「信頼属性」であり、だからこそ政府の監督が要る、という立場。制度は維持したうえで、リスクに応じた選択的な執行に切り替えるべきだと主張しています。
1日102,000件 対 2,678件
議論の中で、制度の実行可能性を示す数字が出てきました。
認証の発行能力が、目標に38倍足りていない
2024年時点で、認証目標を達成するには1日あたり約102,000件の証明書発行が必要と見積もられていました。一方、当時の平均発行能力は1日あたり約2,678件。
制度が求める量と、それを処理する体制の間に、約38倍の開きがあったということです。
本シリーズで繰り返し出てくる話と同じ構図です。第10弾では和牛のハラール対応屠畜施設が国内に3施設しかないこと、第11弾では認証を取った盛田が「当面は限定的な生産」と書いていることを取り上げました。
ハラール市場の制約は、いつも需要側ではなく供給側にあります。今回はそれが、認証を発行する行政の側で起きています。
優先的に厳しく見られる品目
CORE側が提案しているのは、すべてを一律に扱うのではなく、リスクの高いものから優先的に執行する方式です。優先対象として挙げられたのがこちらです。
- 屠畜場、屠畜サービス
- 原材料サプライヤー
- 食肉および食肉由来製品
- ゼラチン、酵素、香料
- 動物由来の原料
- 加工された輸入原料
逆に、認証済み原料で作られた単純な植物性製品は、監督を軽くしてよいとされています。
ここは読み流せないところです。日本からインドネシアへ輸出される加工食品の多くは、上のリストに当てはまります。だしに使う動物由来原料、調味料の香料、加工肉、そして「加工された輸入原料」という区分そのものが日本製品を指しています。
つまり、制度が緩和される方向に見直されたとしても、日本の輸出品が楽になるとは限りません。むしろ緩和の対象外として、厳格審査の側に残る可能性が高い。
日本の事業者が今やるべきこと
見直し論が出ているからといって、様子見は得策ではありません。理由は3つあります。
- 見直されても、厳格審査の対象は変わらない ── 上記の通り、日本の加工食品は優先審査の側です
- 発行能力に限りがある ── 申請が殺到すれば待ち時間は伸びます。後から動くほど不利になります
- 認証取得には準備期間が要る ── 原材料の文書化、サプライヤーの調整、場合によっては製造設備の分離まで求められます
3つ目は、インドネシアの中小企業が負担として訴えている内容そのものですが、日本の事業者にとっても同じです。認証費用より、その準備にかかる時間と手間のほうが大きいというのが実態です。
具体的な進め方はハラール認証の取得ロードマップに、どの認証機関を選ぶかは第2弾のMRA(相互承認)の回にまとめています。
HALAL ICHIBA の立ち位置
HALAL ICHIBA で扱っている商品は、JHA(日本ハラール協会)、NAHA(日本アジアハラール協会)、HFFIA など国内の認証機関で認証を受けたものです。このうち複数は、インドネシアのBPJPHと相互承認(MRA)を結んでいます。
国内の飲食店で使う分には認証機関の違いを意識する必要はほとんどありませんが、将来インドネシアへの展開を視野に入れる事業者にとっては、どの機関の認証かが意味を持ちます。商品ページに認証機関を明記しているのは、そのためです。
醤油の選び方は業務用ハラール醤油の選び方で、味の方向性ごとに整理しています。
シリーズ全体で見えてくる潮流
本シリーズで取り上げてきた業界動向を並べると、方向性が見えてきます。
- 第2弾:MRA(相互承認)締結(制度整備)
- 第7弾:インドネシア義務化 第2段階(期限の設定)
- 第8弾:花王 インドネシア現地生産(非食品への波及)
- 第9弾:八戸の水産加工メーカーが認証取得(地方企業の参入)
- 第10弾:和牛輸出のボトルネックは屠畜枠(供給インフラの制約)
- 第11弾:盛田 小豆島工場が認証取得(老舗の本格対応)
- 第12弾(今回):義務化が発効、同時に制度の実行可能性が問われ始めた
「制度を作る」段階から「制度を回す」段階に移り、回しきれていない部分が表に出てきたのが今の局面です。ルールは決まった。あとはそれを動かせるかどうか、という現実的な問題に入っています。
まとめ
2026年10月18日、インドネシアでハラル認証の義務化が発効します。同時に現地では、中小企業の負担と発行能力の不足を理由に、制度の見直しを求める声が上がっています。
ただし日本の事業者にとって、これは「待っていれば緩くなる」という話ではありません。食肉・ゼラチン・酵素・香料・動物由来原料・加工輸入原料は、見直し後も優先的に厳しく審査される側に位置づけられています。日本の加工食品の多くが、ここに入ります。
認証は、申請してすぐ出るものではありません。発行能力に限りがある以上、早く動いた事業者から順に通っていくことになります。